経鼻内視鏡とは、鼻からスコープを挿入し、食道・胃・十二指腸の検査を行う医療機器です。口からスコープを入れる経口内視鏡とは、大きさや機能性などの点でさまざまな違いがあります。
経口内視鏡を経験した方は、喉の苦しさで次に内視鏡検査をすることが不安だという方も多いのではないでしょうか。
この記事では、経鼻内視鏡と経口内視鏡の違いを比較しながら、経鼻内視鏡にどのようなデメリットがあるのかについて解説します。
経鼻内視鏡と経口内視鏡の違い
胃カメラには、口からスコープを挿入する経口内視鏡と鼻から挿入する経鼻内視鏡の2種類があります。
胃・食道・十二指腸の検査は、かつてはX線(レントゲン)を透過しないバリウム(造影剤)を飲み、X線を連続して照射し、バリウムが口から食道、胃、十二指腸へと流れて行く様子を撮影して行う方法しかありませんでした。しかし、この方法では患者さんの負担が大きいうえに、撮影画像も不鮮明というデメリットがありました。
内視鏡は1952年、初めて実用化されました。1970年代には内視鏡が導入され始め、それまでの胃カメラに取って代わる存在として普及していきました。1985年に先端にCCDを組み込んだビデオスコープが登場し、2002年には内視鏡にハイビジョン技術が導入され、極めて鮮明な画像が得られるようになり、検査の精度が飛躍的に向上しました。
内視鏡というと経口内視鏡を指す場合が多いのですが、なぜ経鼻内視鏡が開発されたのでしょうか。ここでは、経口内視鏡の特徴と経鼻内視鏡の特徴を紹介します。
経口内視鏡の特徴
経鼻内視鏡が開発されるきっかけになったのは、胃カメラ(経口内視鏡)による患者さんへの苦痛です。苦痛に感じる主な点は以下の通りです。
- 喉の痛みや違和感
- 吐き気(嘔吐反射)
- 血圧・心拍数の上昇
- 心理的な不安
胃カメラ検査(経口内視鏡検査)を受けると、もう二度とやりたくないと感じるほど強いストレスを受ける方もいます。
不安が強くなると検査そのものに忌避感が生じ、検査に積極的になれません。
しかし、検査を行わないと病気の発見が遅れて症状が悪化する恐れがあります。そこで、経口内視鏡によるストレスを軽減する方法が検討されました。
経鼻内視鏡が開発されたのには、こうした背景があります。
経鼻内視鏡の特徴
経鼻内視鏡の最大の特徴は、挿入するカメラのスコープの直径が5~6mmと細いことです。経口内視鏡が平均8〜9mmほどの直径であるのに対して、半分ほどの太さです。
直径が細いため挿入もあまり気にならないことが多く、経口内視鏡に比べて舌根部に触れないため、咽頭反射が少なく、検査中に会話もできるというメリットがあります。
嘔吐反射は基本的に生理的な反射で、喉の奥に異物を感じたとき、異物を吐き出そうとする人間んの防御反応でし。特に舌根部を圧迫されると強い反応が起こります。
嘔吐反射が酷い場合は、内視鏡が入っている間ずっと「吐き出したい」という衝動が収まらないため、非常につらい検査になってしまいます。
先述のとおり、経鼻内視鏡は経口内視鏡検査時の苦痛とストレスの問題を改善するために研究、実用化された経緯があります。
そのため、口から入れる内視鏡に比べて、痛みやストレスが小さかったという感想を持つ人も多いです。
経口内視鏡で検査するとき、痛みに対する不安感やストレスが強ければ鎮静剤(静脈麻酔)を使用します。検査後は意識が混濁するリスクが大きいため、自動車やバイク、自転車の運転は控えていただきます。
経鼻内視鏡ならこうした心配もなく、短時間で帰宅できるメリットもあります。
経鼻内視鏡が向いている事例
経鼻内視鏡は、経口内視鏡を受けたことがあり、その際のストレスが大きかった人などに使用されます。
再度内視鏡検査を受ける際、恐怖感や忌避感が生じて積極的に慣れない場合に有用な検査方法です。
口からスコープを挿入する場合、舌根を刺激することがあります。「嘔吐反射」や「喉の粘膜を傷つけることがまれにあること」、「咽頭を通過する時痛みがある」リスクもあります。
また、口を常に開け続けているというストレスに耐えられない、会話ができないことが不安な場合にも、経鼻内視鏡検査が推奨されます。(鎮静剤を使用すると口を開くストレスも殆ど無くなることが多いです。)
経鼻内視鏡は、検査中の口へのストレスも小さくなり呼吸がしやすくなります。このことから、経鼻内視鏡は経口内視鏡に抵抗がある患者さんに適した検査方法といえます。
経鼻内視鏡の5つのデメリット
経口内視鏡に比べて嘔吐反射が少ない経鼻内視鏡ですが、注意しておかなくてはならないポイントが5つあります。
場合によっては、経口内視鏡を選んだほうがよいこともあるでしょう。
以下の5つのデメリットを考慮したうえで、経口と経鼻のどちらの検査を選べばよいかを医師にご相談ください。
鼻の違和感がまったくないわけではない
経口に比べてストレスが小さいといっても、鼻の中に麻酔を使用する必要もあり、違和感や痛みがまったくないわけではありません。
鼻の内側の空間を鼻腔といい、鼻中隔によって左右の通り道に分かれ、左右のそれぞれには側壁から3つの骨(上鼻甲介、中鼻甲介、下鼻甲介)が張り出して一連のひだを作り出していきます。また、3つの骨はそれぞれ空気の通り道(上鼻道・中鼻道・下鼻道)を形づくっています。
また、上鼻道の終わり頃から急に狭くなっているため、内視鏡が鼻腔の壁に触れたり引っかかったりすることがあります。
なかには、内視鏡が鼻に入っていくときの鼻の違和感やつーんとした痛み、頭痛を感じる人もいます。
最も注意すべきは、嘔吐反射を完全に抑えられるわけではないということです。
経口内視鏡より頻度が低いとはいえ、舌根に触れてしまうこともあるため、ある程度の苦しさはあるものと考えておいたほうがよいでしょう。
鼻腔内出血が起こることがある
内視鏡が鼻腔(内部)を通過するとき、注意していても粘膜を傷つけてしまうことがあり、少量の出血や痛みがある可能性があります。
先述のように、人の鼻の中は非常に複雑な構造であり、一人ひとり広さや形状が微妙に異なります。スムーズに挿入できる人と、そうではない人が出てきます。
そのため、痛みを軽減するために粘膜に麻酔を使用するなどで対処します。
内視鏡治療は限られる
胃潰瘍の治療や止血、ポリープの切除などは基本的にできません。しかし、組織の採取はできるため生検組織診断は可能です。
経口内視鏡のスコープは直径が1cm近くあるため、鉗子口という穴を通じてさまざまな処置具を挿入できます。しかし、経鼻内視鏡は直径が半分程しかないため、搭載できる器具の大きさに限度が出てしまいます。
具体的には、操作(処置)を行うためのアームが小さくなるため、つまんだり切り離したりする処置に向かない傾向があります。
経鼻内視鏡の鉗子を使ってポリープを切除することはできますが、安全のため、原則どの病院でも行っていません。
経口内視鏡ならば、検査中に見つかったポリープや病変を摘出することができます。時間短縮につながり、効率的といえます。
鼻腔を通せない場合もある
鼻の穴から内視鏡を挿入することができない場合もあります。これは、鼻腔が経鼻内視鏡の直径よりも狭くなっている場合です。
鼻腔の広さをあらかじめ検査することも可能ですが、内視鏡を通して鼻腔が狭いことが分かるケースがほとんどです。
最も細いスコープの内視鏡でも直径は5mm程であるため、それより狭い鼻腔には適用できません。
また、鼻中隔湾曲症、アレルギー性鼻炎、繰り返す鼻腔炎などの疾患のある人や、鼻の手術を受けられたことのある人にも経鼻内視鏡検査を行うことは難しいです。
その場合は、経口内視鏡に切り替える必要があります。
経口内視鏡に比べて性能が低いこともある
経鼻内視鏡スコープは、経口内視鏡に比べて細いため、性能が劣ることがあるというデメリットがあります。
組織を採取する場合に時間がかかる、胃の中を観察するための空気を送る能力が弱いため、時間がかかる病変を見落としてしまう可能性があるなどです。
細くて小さい分小回りは効きますが、カメラの視野と画素も小さいため、経口内視鏡に比べて画像が荒くなってしまう場合もあります。
異常の見落としは、胃がんや大腸がんの早期発見という内視鏡検査を実施する意味がなくなることにつながります。
がんが発症すると、患者さんの身体に負担がかかり、その後の入院や治療の費用負担も増します。
近年の経鼻内視鏡は改良が進み、経口内視鏡と同様のスペックを装備していますが個々の機能は劣ることもあります。
まとめ
経口内視鏡と経鼻内視鏡には、それぞれ異なるメリットとデメリットがあります。どちらも、胃がんや食道がん、十二指腸がんなどの重大な病気を早期発見するために使用します。
経口内視鏡を使うとがんの見落としが少なく、ポリープの切除ができるメリットがあります。
経鼻内視鏡は、カメラのスコープを挿入するときのストレスを軽減できますが、人によっては適用できない、病変の見落としが起こる可能性があるポリープ切除などの治療はできないなどのデメリットがあります。
どちらの方法で内視鏡の検査を行うかは、医師と相談した上で本人が選択します。
おうえケアとわクリニックでは、経口内視鏡、経鼻内視鏡の両方を検査に用いており、患者さんの希望で選んでいただけます。
胃腸の不調から食中毒まで、幅広い症状・検査。治療に対応しています。検査への不安やデメリットについて詳しく知りたいという方は、お気軽にご相談ください。